小さな世界 第8話


僕にとって今、何よりも大切なものが入った宝箱。
その蓋をそっと開き、僕は自然と顔に笑みをこぼした。
宝箱の中には彼のための小さな世界が作られている。
ベッドにテーブル、椅子にソファー。
水を張ったお風呂も用意されている。
そんな小さな家具の小さなベッドの上で彼はすやすやと眠っていた。
彼がぎゅっと抱きしめて眠るのは小さくてふわふわな体毛を持つリス。
あまりの愛らしさに思わず携帯を取り出し、記録に残す。
静かに眠る姿は本当に可愛い。
映した写真は予想以上にいい出来で、迷わず待ち受けにした。
そんな僕に気がついたのは小さなリス。
キョトンとまるく可愛らしい目を開けたのだが、僕を認識したとたん、野生の動物がもつ凶悪さをその幼い顔に乗せ、声は出さないが威嚇をしてくる。
そしてその小さな手をしっかりと彼に回す物だから、僕も思わずいらっとした。
さっきまでは可愛かったのに何だこいつは。

このリスは先日僕が拾った野生の子リスだった。

毎日毎日部屋の中にいて、移動する時は僕のポケットに隠れている彼に、たまにはのびのびと外の空気を吸ってもらおうと、コンビニで買った菓子パンと飲み物を持って自然公園へ行ったのだ。
人気のない場所で、木に持たれて座った僕の膝に腰をおろし、僕のお腹に持たれかかり、彼を支える僕の掌を布団代わりにうとうとと眠る彼と共に転寝をしていると、何かざわりと胸騒ぎがして、僕は慌てて目を覚ました。
その時だ。
空から何かが降ってきた。
僕は慌てて、眠る彼を手に立ちあがった。

「ほわぁぁ!?」

眠っていた彼は素っ頓狂な悲鳴を上げたが、構う事無くポケットに移動してもらう。
落ちてくるものに慌てて手を伸ばすと、それは子リスで空を見上げると、カラスが飛び回っていた。
子リスの体には嘴でついたのだろう傷があった。
おそらくあのカラスに捕まり、巣に運ばれる途中だったのだろう。
子リスは生きているのか死んでいるのか解らないほどぐったりしていた。
カラスは暫くこのあたりを探した後諦めたらしく何処かへ飛んで行った。
手に残った子リスを見つめたあと、僕は再び木を背に座った。
そしていささか乱暴に移動させたルルーシュを確認する。

「何を持っているんだ?」

キョトンとした顔で尋ねてくるので、どうやら怪我はなさそうだった。
最初は折ったらどうしようと触るのも怖かったのに、今では彼の扱い方には慣れたものだ。

「リスみたい。カラスに襲われたんだね」

僕は手の中のリスを彼に見せる。

「まだ生きているな」
「ホント?」

言われてみれば呼吸のため体が上下している。

「じゃあ手当てが必要だね」

僕はハンカチを取り出し、リスを包むと、彼とは逆のポケットに入れた。
右に小人、左にリス。

「連れて帰るのか?」

意外そうな声でルルーシュは尋ねてきた。

「そりゃ連れて帰るでしょ?こんな小さいんだし、置いて行ったら死んじゃうよ?」

さも当たり前のようにスザクは答え、残念だけど今日はもう帰ろうかと、荷物をまとめ始めた。
その様子にルルーシュはくすりと笑った。
そうだった。
こういう性格の男だから、小人という不可思議な存在でさえ助けたのだ。

家でハンカチを開くと、子リスは目を覚ましていた。
キョトンと大きく丸い目で辺りを見回した後、スザクの姿を視界に収め、突如豹変した。まさに野生の動物うという鋭いまなざしで威嚇してきたのだ。

「え?ええ?」

スザクは、なんで!?と声を上げた。
いや、確かに犬猫問わず嫌われる体質だが・・・視界に入れたとたん威嚇はひどいと思う。

「野生動物だからだろ?」

何を驚いているんだ。
相手は野生の動物で鋭い前歯もあることから、念のため僕のポケットに隠れていたルルーシュが顔を覗かせてそう口にした。
子リスは視線をルルーシュに向けた。
その途端再び豹変する。
鋭い野生の獣の目が、丸く愛らしい目に戻り、痛む足を引きずりながらルルーシュへ向かって行くのだ。

「ん?」
「え?」

そして可愛らしく鳴く。
ふらふらとした足取りで僕に飛びつき、服をよじ登り、ルルーシュの元へ行くと、甘えたようにすり寄った。

「君を気に入ったみたいだね」
「・・・そのようだな」

一瞬食べられるかもしれないと身構えた僕たちは、ほっと安堵の息を漏らした。
リスは基本草食だが、小動物を食べることもある。
だが、これは獲物相手にというより、親からはぐれて怯えていた子供が親を見つけ安堵し甘えたような感じだった。
スザクとルルーシュは、スザクに威嚇する子リスを宥めながら、ダニがいたらルルーシュが大変になると、まずは綺麗に洗い、手当てをした。
その日以来子リスはこの家に住みつき、こうしてルルーシュの傍にいるのだ。
ロロと名付けられた子リスの体温でもルルーシュは体を温める事が出来たため、僕は泣く泣く彼を家に残し大学に通い始めた。

「ちゃんと昼食の誘いにも乗るんだぞ。夜は遅くなってもいいからな」

その言葉に、やはりルルーシュは自分のせいで交友関係が狭くなる事を気にしていたのだと気づき、朝は「行ってらっしゃい」と送られ、「おかえり」と迎えられる生活となった。
誰かが家で出迎えてくれる。
それはそれで嬉しい面もあるのだが、ロロとルルーシュがずっと一緒というのは内心いらっとするため、たまに右にルルーシュ、左にロロを入れて大学に行くこともあった。
だが、今日はルルーシュを家に置いて行ったのは正解だったと、僕はまだ目を覚まさないルルーシュに気付かれないよう蓋を完全に開いた。
ロロは流石リスという動きで、するすると箱から這い出す。
そして自分がルルーシュを守るのだというように、辺りを警戒するのだ。
リスの護衛か。
思わず僕は苦笑した
そして、今日大学で出会った新緑の髪の女性を思い出した。

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